サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ

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 仮にも映画好きなら少しは意識しなければならないであろう、フィルム→デジタルへの変遷について関係者のインタビューを集めたドキュメンタリー。

 ドキュメンタリー映画としては堅実な作りで、きわめて勉強になるというか、改めていま映画というのは大きい変化の時を迎えているのだなあということがわかった。わりと初歩的な(オレでも知ってる級の)知識から説明が始まるので、ちょっとそういう映画製作の裏側とかをこれから知りたい!という人にも向いているであろう。

 個人的にはマイケル・マンがデジタルに移行した時期の「夜の撮影」についての話があったのでグッドでした。あんま感想をべらべら述べられるタイプの映画でないので、このへんで!

okja

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 天才監督ポン・ジュノの最新作はなんとネットフリックス独占配信。ネットフリックスはほんと僕たちが払ったお金をいいことに使ってくれるね。支持していきたいね。

 

 内部にいくつも「仕掛け」があり、ちょっとネタバレめいたことを言わないと感想にならないから読む人は注意な!

 ポン・ジュノという人はよくわからんがスゲー映画を撮る人で、この映画も例に漏れずなんだかよくわからないがスゲー映画だった…。

 

 前半部から怒涛のように散りばめられる超悪趣味な「肉食」の記号。この「肉食ってキモいのでは?」というモチーフはスノーピアサーにもあった。ただ、単にエコメッセージや、ベジタリアン的にはならず、そういうものも徹底して皮肉っていて、そのあたりの冷めたバランス感覚もポン・ジュノ的であるなと思う。映画の悪趣味さは中盤で爆発し、終盤の悪夢的な展開へとつながる。エコテロリズム、レイプ、激しく揺さぶられる善人と悪人という概念、産業、経済……少女と怪物の友情は、社会の悪意や強烈な思想に晒され続ける。無邪気に(山奥で)「ディズニー的に」生きてきたときには触れなかった強烈な「毒」に少女とokjaは晒され続ける。その悪夢的な世界観はデビット・リンチブルーベルベットをも彷彿とさせる。ディズニー的だった怪物との友情物語は、途中ソウルでの息もつかせぬアクションシーンを超えて、アクの強いグロテスクな表現が連発される世界へと誘われ、後味としてはとにかく「気色の悪い」映画に仕上がった。行って帰ってくる話だ。しかし行く前とは世界の見え方が決定的に変わっている。

 

 ポン・ジュノの映画に共通するテーマは、過去と未来、子供と大人の境界線上で生まれる歪みなのだなと思った。文明の発展の途中に、グエムルや、顔のない殺人鬼や、okjaが生まれる。文明は発展して、もう戻ることはない。殺人の追憶でいえば、顔のない殺人鬼はもう二度とみつからない。母なる証明でいえば、無邪気だったはずの息子の見え方は、決定的に変わってしまう。少女は、この世の悪意の根源たる「経済」の概念を最終的に理解し、それを用いることになる。

 そこで用いられることになる「アレ」をどう読み解くかに関しては、アレが韓国ではどういう意味を持つのかということが深く関係していると思う。

 

 動物との心の交流を描く「心温まるドラマ」がアクションになり、時にコメディになって、社会批判のようなものがはじまり、ホラー的としかいいようのない境地を経て、映画が終わるころには「いったい何を見たのか」カテゴライズ不明な感情が残る。とにかく極めてポン・ジュノ的としかいいようのない、純度の高いポン・ジュノ映画だった。必見。

 

 

バクマン。

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 モテキの……というのも今やアレだが、大根仁監督によるジャンプ漫画の実写化。ジャンプ漫画の実写化としてはたぶん今までの映画作品でもっとも良く出来ている、と思うが他がひどいだけという説もある。たぶん次点はるろ剣で、どちらも佐藤健だ。ジャンプ顔なのだろうか。

 

 バクマンは結構好きで連載時、特に初期は結構読んでいて、結構良かったと思うんだけど(結構の多い文章)途中から、ほんとうに漫画みたいになっちゃって、なんだよこれ漫画みたいじゃん!ってなってしまった。漫画なのに。実写であっても染谷将太演じる新妻エイジの漫画っぷりは漫画だ。ガモウはこういうキャラが好きなのだろうか。

 

 よく出来ていないアクション映画の特徴に「物語の進行と関係ないアクションシーン」というものがあるが、バクマンにも、物語の進行と実質関係ないグラフィカルなシーンが1つ2つ見受けられ、途中退屈しないこともなかった。っていうか劇伴がショボいなんちゃってテクノだったり、「なんちゃってピンポン」という感じで、今更それなのかよ、という印象はあります(なんちゃってスーパーカーことサカナクションが作っているらしい)。が、でもまあ他の部分がよく出来ているので概ね気にならずに見れた。恋愛要素をほぼ完全にアレンジしたのもクレバーな選択だと思う。

 

 今回見て気づいたのだが、このバクマン映画は原作よりももっと「G戦場ヘヴンズドア」に近いテーマになっているような気がする(原作のときからその感じはモチロンあるのだが、より濃くなっている)し、よく考えるとこれは「セッション」とも似た話だ。映画後半で行われる“選択”は「G戦場」や「セッション」ではほぼ闇堕ちとして描かれるのに対して、バクマンではどこまでもポジティブなものとして描かれる。選びとっているものは三作品とも実質同じなのにね。「命を賭けてやる」=「悪魔に魂を売る」という選択がどういう結果を招くのか、特に「G戦場」と対比して観ると面白いだろう。「G戦場」は大好きな部分と大嫌いな部分がないまぜになったマンガで、バクマンは大嫌いな部分がないかわりに大好きな部分もない。やっぱ芯食ってるほうが強烈に嫌いになれたりするんだろうな。

 

 ちなみにバクマンにもセッションにもG戦場にも、すべて「大量に出血するシーン」が含まれている。音楽や漫画がテーマなのにね。創るというのは、血を流すことなのだ。

はじまりのうた

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 シング・ストリートの監督、ジョン・カーニーの一個前の映画。監督本人がミュージシャン出身という経歴の持ち主なので音楽映画ばっかり録っていて、どれもそれなりに評判がいい。主演はキーラ・ナイトレイと我らが“ハルク”、マーク・ラファロ

 

 冒頭の「アレンジが聴こえる」ところの演出で心を掴まれない人間はいないだろう。音楽が始まる、音楽を作ることの喜びをこれほどまでに正確に、そして美しく描写できる監督は他にはいない。次作シング・ストリートでもほんとうにそういう場面が素晴らしかったことを思い出す。キーラ・ナイトレイが非常に可愛く撮れているのもよい。顔芸映画ばかり出てたからな、最近。

 

 会社をクビになった音楽プロデューサーと、彼氏にフラれたばかりのシンガーソングライターが手を組み、アルバムの製作に乗り出す。その中でいろいろ実生活のわだかまりなどが解消されていき、最後はいい感じになって終わる。というシナリオ自体はまあそうだろう、そうなるっきゃないだろう(最後にちょっとひねりがある)みたいな映画なんだが、なにせ音楽とそれにまつわる演出がどれも的確で素晴らしい。ニューウェーブ音楽がテーマだったシング・ストリートに比べ、女性インディーSSWものということで、基本的にはオレの趣味じゃない音楽なんだけど、それでも、どこが勘所なのかわかるように作られている。

 

 これはほんとオレ自身の趣味や性格によるものだけど、オレにとってはシング・ストリートのほうが深く強く刺さった映画ではあった、けど、こちらも素晴らしいし、こっちの方が刺さるって人も当然いると思う。ネットフリックスに契約してんなら、観といて損は無いだろう。傑作でしょう。傑作だとは思うな。モス・デフことヤシーン・ベイさんも出てますね。なんかどっかの国で捕まってラッパー辞めるとか言ってましたね、大丈夫なんでしょうか、心配です。

殺人の追憶

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 観るのは何度目になるだろうか、天才監督ポン・ジュノの(たぶん)最高傑作であり、オレとしても人生ベスト級に大好きな映画だ。完璧な画面設計、色彩の美しさ、ちょっと異常な長回しなどの撮影の素晴らしさ、エンターテイメントとしての抜群の面白さ、内部に込められた重層的な意味、などどんな面から観ても貶す余地がない。超一級の犯罪サスペンスだが、しかし、それだけの映画ではないんだ。

 

 劇場で観たわけではないので、今まで観た殺人の追憶はDVDソースだったのだが、さすがネットフリックス、非常に綺麗な画質で観れて、本当に眼福といった感じ。あんま詳しい分析などはできないのでしないけど、この映画はとにかく「顔」についての映画なので、「顔」映画であるといえる。このDVDのジャケットもそれを象徴してるよな。

 

 時代が移り変わり、過去が未来へと移り変わる中で取り残されるものや忘れ去られるものというのがある。それは妖怪や幽霊になったり、いろいろな方法で描かれるが、この映画ではそれが殺人事件という形で現れる。顔を見れば悪いヤツは大体わかると豪語する警官、しかし、それは「かつて」の世界の話だ。これからは通用しない。人間の顔をみて話して、何かが理解できる時代というのは終わってしまった。それでも、顔に執着せざるを得ないのだ。(このあたりのテーマは韓国が整形大国であるということも関係しているかもしれない)

 

 ちょっとだけというつもりで結局全部観てしまった。オープニングシークエンスと対になっているラストシーンが圧巻。この完成度の映画はなかなか観たことがないし、パーフェクトな映画だと思う。次々作「母なる証明」も似たトーンの似たテーマの映画でこちらも凄まじい映画だが、好みとしては殺人の追憶の方が好きです。好みの問題ね、これ。

ビッグゲーム 大統領と少年ハンター

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 サミュエルL・ジャクソンが大統領役の謎映画。いったい何なのか、よくわからないが大統領と少年ハンターという響きに惹かれて観劇した。フィンランド、ドイツ、イギリスの三カ国製作らしいが、正直ドイツ要素はわからない。イギリスも作中では関係ないのだが、知ってるイギリス人俳優が出てた。

 

 最後までどういう計画だったか謎な謎計画に巻き込まれた大統領の飛行機がフィンランドの山奥に不時着。そこでイニシエーション的な成人の儀を行っていた狩人の少年と力を合わせサバイバルする。

 つってもほぼハンティング要素はなく、狩りの知識や山の知識みたいなものを役立てて敵を倒していくみたいなランボー的な部分はゼロ。笑ってしまうようなドハデ状況を、主に根性と運で乗り切る。見る前には、少年がマスター・キートンみたいな感じで土着の武器で敵を倒していくのかな?と思っていたけど、普通に銃とか、あと弓でした。(弓の使われ方がすごいヘン)

 少年が大統領を救ったことで大人としても認められるエンドは、まあそういう風にしかならんだろという感じでいいのだが、黒幕にお咎めなしのまま終わるので、もしや続編をつくるつもりなのか……?という気持ちにさせる。どうやって作るんだよ!でも今回もかなりメチャクチャをして狩人の少年と大統領というシチュエーションを成り立たせているので、そこらへんはもういいのか。脚本ははっきりいってメチャクチャで突っ込みだしたらキリがないが、まあ子供向け映画という側面もあるのだろうし、意外と、期待値ぐらいには楽しい映画に仕上がっていた。これぐらいの映画が見れればオレは基本的に満足なのだ。

 

 でもまあ気になる点はいくらでもあげつらうことができるし、最後の微妙に後味悪い感じとかいったいどういうつもりなんだという気がしないでもないが、まあいいか、不思議と観てられる映画だった。役者力なんだろうか。ハンティング要素みたいなものを過剰に期待するとよくないのかもしれない。もっとスパイキッズとかホーム・アローンとか、そういったテンションです、これは。

ゴーストライター

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 イギリス首相の自伝の代筆を頼まれたゴーストライターがなんだかろくでもないことに巻き込まれていくサスペンス映画。ジェームズ・ボンドレントンというイギリスをある種象徴している二人の共演作。監督はあの名匠ロマン・ポランスキーだが、よく考えてみたら、オレ、ポランスキーの映画ってあんま観たことなかったんだよな。

 

 前々から面白い面白いという噂は聞いてたんだけど、これがまあ、どえらい面白かった。陰謀に巻き込まれていくくだりでグイグイ引き込まれるし、街のイヤな感じのヤツ描写とかも非常にクール。語り口もタイトで、極めてオレ好みのものだ。ちょっと社会風刺、というかアメリカ風刺みたいなのも入っていてお得だし、なにせエンドシーンの切れ味で、うおー、これはいい映画だぞ!と思わせる力がある。

 

 ネタバレは極力したくないので、漠然と書きますが、二転三転する展開、どんどんとヤバイことになってく主人公、ファム・ファタール的な怪しい女、そして謎が明かされて結末、とサービスてんこ盛りのザ・娯楽サスペンスで、今までオレが観たこういうジャンルの映画の中でも納得度がかなり高いほうだし、フツーに傑作だと思う。傑作ですよ!